Vol.56_基幹システムで全てを網羅してははだめな理由〜基幹システム=長距離トラック説

「基幹システム」、よく聞く言葉ですが、「説明して」と言われると一瞬言葉に詰まってしまいますね。

「そりゃあお前、『基幹システム』ってえのは基幹のシステムに決まってんじゃねえか。ん〜〜だから基幹のシステムだよ!基の幹のシ・ス・テ・ム!! 以上!」

急に誰かに聞かれたら、こんな事になってしまいそうです。

「基幹システム」は受発注管理や販売管理、生産管理、在庫管理、会計業務など、企業の基幹となる業務をコンピュータで管理しようとするシステムの総称です。

見かけ上1本のコンピュータシステムになっている(ERPとも呼ばれます)こともあれば、いくつかのシステム群に分かれて存在しているケースもあります。

また何を基幹システムに加えるかは会社の規模や形態によって多少の違いがあるようです。

お読みの皆さんの中にも、これから基幹システムを検討しようとお考えのかたや、お持ちの基幹システムの刷新をお考えかたもいらっしゃるんじゃないでしょうか。

そんなみなさまに、一応基幹システムらしいものを構築した経験から申し上げられるのは、「全てを網羅しようとしない方が良いですよ」、ということです。

基幹システムは業務そのものをダイレクトに高速化してくれる大きなメリットがありますが、その代償として業務のやりかたを固定化してしまいます。

固定化された業務は、その基幹システムがある限り永続化すると言うこともできますね。

「永続する」ことが企業の目的のひとつではありますので、その事自体は悪いことではありません。

しかし、かのドラッカーも「事業の定義は石版に刻んだ 碑文ではない。(チェンジ・リーダーの条件より)」と述べています。

事業ですらそうですから、その下部概念となる日々の業務となれば「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。(方丈記)」ではありませんが、いつの間にか時代の流れに合わせ、少しづつ変わっていくものです。

商品・サービスや事業というのは常に変化し続けるもの、いやもっと大きく捉えれば「寿命」があります。

企業があつかう商品・サービスの内容が時代の流れとともに変わっても、基幹システムは変えられない。

5年か10年も基幹システムを使い続けていくと、そんなことが実際にしばしば発生するものです。

もちろん、単なる商品の入れ替えなら、「商品マスター」と呼ばれるデータベースを更新すれば済むことです。

しかし、お客様の種類が変わる(個人→法人)、売り方が変わる(売り切り→サブスク)、業態そのものが変わる(飲食業→配達業)といったような、数年かけて起こるような市場構造の変化が起きると、そういったマスターデータの入れ替えでは対応できず、基幹システムそのものの改変が必要になってしまいます。

この改変には、それなりの費用と時間がかかります。

しかも、この手の変化はあらかじめ予想がつきませんので、新基幹システム完成の数年後ならまだしも、運悪く1年後にそういった変化が起こってしまうと、もとを取りだす前にまた費用がかかる、ということになり兼ねません。

費用を惜しんでそのまま使っていると、その基幹システムは時間が立つにつれ「いったいなんのための資料なの?」というデータを山ほど吐き出すモンスターに変貌してしまいます(私は昔勤めていた会社でこのモンスターを見たことがあります)。

「じゃあ どうするの?」 ということなんですが、私は、基幹システムの構築にあたっては「向こう10年は変わらない」と考えることができる、会計や人事労務、売上請求などの、文字通り「基幹業務」の対応を中心に構築するのが良いと思います。

そして売上予測やセグメント別の商品分析や顧客分析、などなどの市場構造の変化で形が変わるものは、個別の伝票やマスターなどにある、分析に必要なデータをEXCELやスプレッドシートに直接読み込めるCSV形式で出力できるようにしておいてもらうことをおすすめします。

このデータを月次ごとなど、必要に応じて生成してEXCELなりに取り込んで、好きな形の表やグラフにして分析すればよいのではないかと思うのです。

もちろん、EXCEL側に読み込み用のシートを作っておいて、自動計算で分析用の表やグラフを作ることも、少し詳しい社員に頼めばできてしまいます。

その結果、基幹システム構築の工数が減ってコスト削減になり、いつでも時代に応じた分析資料が作ることができ、結果基幹システムの陳腐化が防げて寿命が伸びての一石三鳥。

ちょっとわかりにくい例えですが、基幹システムは「長距離トラック」のようなもの。

自分の家の前まで「長距離トラック」に来てもらうのは無理があると思います。

仮に家の前まで来てもらったとしても、一体どうやってコンテナを開けて、その時自分がほしい荷物を取り出すのでしょう?

ここはやはり、トラック便の営業所にコンテナを降ろしてもらい、そこから自分に必要な荷物を取り出してもらって、小型トラックで自分の家に配達してもらうのが、シンプルで無理がないのではないでしょうか?

基幹システムと、EXCELやスプレッドシートの関係ってそんな感じだと思っています。

EXCELに落とし込んで仕組みにするのがめんどくさい方はぜひエースラボ「特命研究員DX」の伊藤に気軽に相談してみてください(と 最後はPR)。

☆ちなみに私の会社の基幹システムは1本のコンピュータシステムになっているタイプではありません。

ホールディングス会社のエースユナイテッドが担当する、会計業務や給与計算はパッケージ物の、PCアプリケーションを使っています。複数名が関わるので、サーバーにデータがあって社内ネットワークで同時に複数名が利用できるタイプのものです(会計はTKC、給与は おまかせあれ〜 のやつ)。

そして一番大きい事業会社、ミカド電装商事の販売管理部や受発注管理、それにプラスして現場系の管理については、地元のソフトウェアハウスに発注した、オーダーメードのもの。こちらは「MIKADONET」という名前で、アカウントを持っている社員が自由にアクセスできるサーバーに搭載されていますが、帳票のメニューなどは極めてシンプルで、毎月の分析には基本データをCSVに吐き出して、Googleスプレッドシートで加工してます。

「見学したい」という方がいらっしゃいましたら、いつでもお申し付けください。