前回は脳の大きさと知能の関係についての考察から、文字の発達による「脳の外部化」で文明を手に入れた私たちホモ・サピエンスの脳が、IT化でさらに小型化していきそうなお話をさせていただき・・
しかし、私たちの子孫の脳が仮に小さくなったとしても、真のストロングポイントである共感力・コミュニケーション力が人類全体としてより磨かれていくのであれば、それはむしろ祝福されるべきものでないのではないか?
それがホモ・サピエンスの衰退にはつながらないと思いますよ、という主張をさせていただきました。
今回はここから一歩進めて、私たちヒトをはじめとする生き物の賢さといったものが、どうやって形作られるのか?
経営層向けのレターですから、さらにはヒトが作る会社組織の構造は脳の相似形になる、というサワダの視点に立ち、会社組織がそなえるべき自律的な賢さはどのようにして作られるのか? というお話をなるだけわかりやすくお伝えしてまいります。
前号で小さな脳なのに犬並みの知能を持つカラスや、私たちより脳が大きかったのに絶滅してしまった、ホモ・サピエンスの親戚ネアンデルタール人の例でも申しました通り、脳の大きさと賢さには、あまり大きな関係性はないようです。
では賢さ(知性)を決定づけているのは一体何なんでしょう?
科学雑誌やなんかを見ると、実際に賢さや知性に大きく関係しているのは、脳を構成するニューロン(神経細胞、脳細胞とも言います)同士のネットワーク(つながり)であると言われています。
右のイラストの通り(いらすとやさんありがとう!)、ニューロンには、細胞体のまわりにある短いヒゲのような「樹状突起(じゅじょうとっき)」と、細胞体からのびた長いヒゲの「軸索(じくさく)」と2種類の「ヒゲ」があるそうです。
短いひげのような形をした「樹状突起」は1つのニューロンに複数本存在し、情報を受け取る役目を果たしています。
情報を送る役目の、しっぽのような形をした「軸索」は通常1本しかないそうで、その長さは数ミリから最大数十センチと幅があり、その先端は複数に枝分かれしています。
ニューロンは、他のニューロンの軸索や、見る・聞く・嗅ぐ・触覚などの感覚を受け持つ「知覚神経」が分泌する、ドーパミン、セロトニンはじめ100種類もの神経伝達物質を、複数の樹状突起で受け取ります。
そしてその刺激を電気信号に変換する時に増幅したり減らしたりした上で自らの軸索を使って、これまた神経伝達物質を出すことで他のニューロンの樹状突起に伝えます。
ちなみにドーパミンは興奮や快楽を伝え、セロトニンはドーパミンの作用を弱めることで安定をもたらします。
ギャンブルで勝ったり、ある種の薬物でドーパミンがドパーッと出ると、ものすごい快楽や幸福感が得られるので、一度その味を覚えてしまうと依存症になりやすくなるんですね。
また、セロトニンの分泌が不足するとリラックスすることが難しくなり、うつ病を引き起こしたりするんだそうです。
このようにニューロンが神経伝達物質や電気を使って発した情報が脳内で盛んにやり取りされることで、私たちの「思考」が行われます。
このニューロンがたがいにつながり合う「ニューラルネットワーク」が密で深さと広がりがあればあるほど、知も深く広くなることは「ディープラーニング」という手法を使った第3世代人工知能(AI)の研究結果からも広く言われていることです。
コンピュータは0と1という単純な信号しかもってませんが、この「ディープラーニング」で私たちの思考に近いことをやってのけます。
どうやら、私たちのニューロンも1個1個は単純な構造ですが、複雑な「ニューラルネットワーク」を持つことで私たちの賢さや知性を形作っているようです。
そして「ニューラルネットワーク」の結節点、つまりニューロン同士のつながり合う部分(ヒゲ状の樹状突起と、しっぽのような軸索の枝分かれした先端がくっついているところ)を「シナプス」と呼びます。
この「シナプス」の数こそが、脳の大きさよりも、ニューロンの数よりも、ずーっと大事な賢さの源泉であるということが、まず1つ言えるんじゃないかと思います。
ここまで長々書いたことを簡単にまとめると
1)知性の高さや賢さはシナプス(ニューロン間の接点)の数と大きな関係がある。
ということでしょうか。
またニューロンのなかでも長い軸索を持つタイプは脳内の離れた部位のニューロンや、脊髄をつうじて脳の外部と情報をやり取りしています。
ニューロンのネットワーク上で、「まったく違った情報」をいろいろ組み合わせたり、離したりすることで、私たちが空想したり、ひらめいたり、創造したりすることができるのはこの軸索の長いニューロンが存在するおかげなのかもしれません。
なので
2)長い軸索やその分岐を多く持つニューロンの存在がより幅広い知性を形作る。
ということも言えると思います。
さて長い前フリでしたが、ここからがいよいよ本題です。
このような考察の結果、私サワダゲンイチロウは
「ヒトが創る会社組織の仕組みは、脳や知性の構造とそっくりそのまま相似形だ!」
という結論に達しました。
何いってんだこいつ! と思った方ももう少しお付き合いください。
脳の構造と会社組織が相似形だというのは、会社組織を構成するメンバーが、脳で言えばニューロン(脳細胞)にあたるんじゃないの?ということです。
そしてもしメンバーがニューロンだとしたなら、ニューラルネットワークで複雑にからみあい、たくさんのシナプスを持つ、というヒトの脳の構造そのものこそが「会社組織」のひな形、原型と言えるんじゃありませんか?ということでもあります。
この仮説にしたがえば、会社組織の機能(働き)は、内部の情報に反応し、共感を高め合う「樹状突起的な感性」と、遠方の組織外の情報パイプとして新しい気づきを創造する「軸索的感性」が、その接点であるシナプスを通じて形作っている、ということになるでしょう。
まだ少し変に聞こえるかもしれませんが、サワダは会社組織というものが、ニューラルネットワークで知性を形作るヒトの集団として存在するからこそ、会社組織は外形も内面も自然と脳の相似形になるのだ、と強く思っているんです。
みなさんもだんだんそう思えてきましたでしょうか? そう思えてきましたね!
だとしたら「賢くて強い会社組織」はきっと以下のような構造になっているんじゃないでしょうか?
① メンバー間のつながり(パイプ)が多方面に伸びていて接点が多い。
② 長い軸索やその分岐を多く持つニューロンのように、会社組織の壁を乗り越えて様々な情報を持つ人達とコミュニケーションを取れる人材が一定量存在する。
小さな組織でも、人と人とのネットワークが良ければ賢く知性にあふれた会社組織になるでしょうし、大きな会社組織でもネットワークが弱ければその逆になるというわけです。
また、近くとのネットワークを形作る、短い軸索のニューロンばかりだと、共感性が高く、場の空気は良さそうですが、遠くの情報は入らず、同質性の高い変化に弱い会社組織になってしまいそうです。
理想的な会社組織の構造はその大小に関わらず、内部のコミュニケーション力で共感性をしっかり保ちながら、ポイントになる社員が長〜い軸索を外部に伸ばして、他組織と緩やかなネットワークを持って情報収集をおこたらない、そんな形ですね。
あ、それからもう一つだけ「賢くて強い会社組織」を考えるためのヒントになる、科学的事実があります。
実はシナプスを形成する樹状突起と軸索は、直につながってはおらず、少し隙間があります。
軸索の先端から(ドーパミンならドパーッと)発射された神経伝達物質はこのシナプスの隙間をただよって受け手の樹状突起に届き、そこからさらに電気信号に変換されて軸索を通り、また軸索の先端から神経伝達物質として発射!、という手順でほかのニューロンにリレーされていきます。
そんなニューロンとニューロンをつなぐシナプスも結構個性があって、伝達効率が良くて信号がスムーズに通るところと、通りにくいところがあり、その効率はまちまちだそうです。
しかし樹状突起が繰り返し神経伝達物質を受けていると、そのまたさきっちょにあるトゲトゲの「スパイン」というところにある受容体の数が増え、その結果シナプスの感度が高まります。このおかげでニューラルネットワークには、学習前よりスムーズに情報が流れるようになります。
つまり「繰り返し神経伝達物質が来る状態」である「学習」を行なうことによってシナプスの伝達効率を上げることで、賢さを増すことは可能であると言うことができます。
残念ながらトレーニングによって「シナプス」の数そのものが増えることはなく、その数が最大なのは生後1年のころですが、それでもヒトの脳が持つシナプスは数百兆個(!)ということです。
つまり高い知性に必要な3番めの条件は
3)シナプスの数は増やせない(増やせるという異論もあります)が、学習によって受容体の数を増やしてシナプスの伝達効率を上げることが可能である。
ということになると思います。
そうであるなら、「賢くて自律的な強い会社組織」の条件にもう一つ
③ 組織の大小に関わらず、接点間のコミュニケーション力(伝達力)を上げるための研修や上司からの教育など、適切なトレーニングの機会がある。
を加える必要がありますね。
最後に今回のサワダの主張をまとめると・・
「ヒトが集まってできる会社組織は、ヒトの脳細胞の相似形である」という前提から考える「賢くて自律的な強い組織」の3条件は
① メンバー間の接点の多さ
② 会社組織の壁を乗り越える人材の存在
③ 適切なコミュニケーショントレーニング
である、ということになると考えます。
皆さんの会社の現状はいかがですか? 皆さんの理想の会社組織はどんな形ですか?
今年もお互い、理想の会社組織づくりを目指して励んでいきたいものですね。
☆最近の研究で、イカはデザートのために主食をガマンすることができる、というイヌと同程度(!)の知性を持っていることがわかってきました。ニューロンの数は双方とも5億個で同じだそうです。これはイカ刺しが食べにくくなりますね(笑)