某経済紙の、イデコ法改正にからめた若者向けの投資広告をたらたら眺めていたら、某証券会社役員のこんな言葉が載ってました。
「若者よファーストペンギンたれ」
ご存じの方も多いと思いますが、ファーストペンギンは集団で行動するペンギンの群れの中から、天敵がいるかもしれない海へ、魚を求めて最初に飛びこむ最初の1羽のペンギンのことを指します。
ファーストペンギンはビジネス用語として広く使われ、リスクをおかしてでも先行者利益を獲得したベンチャー企業や経営者への賛辞として使われることが多いようです。
しかし、生物学的に考えるとファーストペンギンであろうと、セカンド・サード、はたまたラストペンギンであろうと、生存の可能性にはあまり優劣がありません。
最初に飛び込んで、凶暴なヒョウモンアザラシにパクリといかれることもあるでしょうし、セカンドペンギンが、ファーストペンギンが飛び込む音を聞いて駆けつけたシャチに丸呑みされることもあるでしょう。
彼らペンギンはあくまで「大群で行動することで外敵に一度に食べられる確率を下げている」のであって何番目が有利とかいうわけではないのです。
さしずめファーストペンギンは、たまたま前のほうにいて、後ろからのプレッシャーで飛び込む羽目になった、というだけでしょう。
オマハの賢人ことウォーレン・バフェットが株主あてに書いた書簡集「バフェットからの手紙」の愛読者である私は、ここで彼のある言葉を思い出してしまいます。
「宇宙開発にかける人々の情熱はすばらしいと思っても、自分が宇宙に飛び立とうとは思わないこと。」
最近では民間企業も宇宙にチャレンジする時代ですからそうでもないかもしれませんが、少し前まで宇宙に飛び立つためにはまさに「命をかける」必要がありました。
バフェットがここで言っている事は、「たった一つしかない命や虎の子の資産を、リスクの高すぎるチャレンジ1回で失わないこと。」
ビジネス的な意味でファーストペンギンたらんとするのなら、少なくとも今飛び込もうとする先は池なのか、海なのか、はたまた漆黒の宇宙なのかを見極めるべきです。
そして運悪く失敗した時のダメージの見通しくらいは立てて、手持ちからどのくらいの資源を投下するか、くらいはあらかじめ決めてから、えいやっと飛び込むべきでしょう。
間違っても実際のファーストペンギンのように後ろから押されたり、周囲のプレッシャーに押されて、「事ここに至っては」みたいな理由で飛び込んでしまってはいけませんね。
おっと、ここでもう一つ、この某証券会社の取締役殿が用いた
「〇〇よ!XXたれ!」
という、よくある紋切り型の表現。
巨人軍選手 よ 紳士 たれ
政治家 よ 清廉 たれ
焼鳥 よ 塩よりタレ たれ
とかそんなやつです
私は「よ、たれ構文」と名付けましたが、このうさんくささにも触れないわけにはいけません。
この構文はよく新聞の社説などで登場しますが、ほんとに要注意というか、この構文で書かれ、話されることがらに耳を貸すべきではないと思います。
この構文を用いる方は、ほとんど自分では何もなしていない、しかもその主張に一切責任を持つ気がない、実質上、あるいは精神的な「老人」だと思います。
今回のように、「若者の資産形成に関してなんの責任もない」どころか証券市場という賭場の主催者側で禄を食む、証券会社の役員がいくら「たれたれ」言っても、そんな話には絶対耳を傾けるべきではありません。
ここでもう一つバフェットさんの箴言をお届けしましょう。
「あなたの懐を満たす事ができない人間に限って、確信を持ってあなたに何か吹き込もうとする。」
還暦を過ぎて、見ようによっては老人とも言える私ですが、「よたれ構文の」使い手になるくらいなら死んだほうがマシですね
万が一、私が酔った勢いで「よたれ構文」を口走ったら、みなさんどうか後ろからビールかワインのボトルで殴り倒してください。
伏してお願いします。